Prologue 2:嵐の前

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「あ、でもそんなに深刻に考えなくてもいいよ。陸上とか、球技、水泳、山登りとかいうのじゃなければ大丈夫だから」  言ってから彼女は窓の外を見た。その先にあるのはベランダと夜空である。 「……天文研究会の真似事みたいなのでもいいよ。望遠鏡ならあるし」 「天文、か……」  彼らの住む都会では、この町ほど多くの星を見ることは出来ない。二等星が見える程度だ。だから、本格的な観測をしようとすれば田舎に出てくる必要がある。そこで幸助は思った。 「天野さんは実家通いって言ってたね」 「うん」 「両親の実家は?」 「も、大体近所。うちの家系は近くに密集してるから。お正月に集まるのが楽だよ」 「じゃあ修学旅行以外では遠出したことがないの?」 「そうだね、長野、京都、沖縄くらい。北関東は今回が初めて」 「じゃ、旅行サークルなんてどうよ?」  長期休暇に日本の田舎を巡るという主旨のそのサークルは、美奈の好奇心をいたく刺激した。  ここまで来ると、あとはトントン拍子で進む。曖昧にしかしていなかった自己紹介をもう一度行い、互いの連絡先を交換し、ゴールデンウィークに最初の旅行に出ようという話が固まるまではあっという間だった。
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