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挨拶を交わしてから、菜摘は彼らのために一本ずつ買ったスポーツドリンクを手渡した。
「サンキュ」
今日の幸助は白のVネックシャツの上にオレンジのタクティカルベスト、灰色がかったカーゴパンツという服装だった。彼が細身だからか、それとも服のサイズが一回り大きいのか、その布地はだぶついていた。
「ありがとな」
対する欽二は、良く言えば動きやすい、悪く言えば窮屈そうな出で立ちだ。くすんだ空色の丸首シャツも黒のジーンズも、彼のたくましい肉体にフィットしている。
口に出しこそしなかったものの、美奈と菜摘はやはりこの二人は似ていながらも正反対だなと微笑を漏らした。
「じゃ、そろそろ出発するか」
二口ほどペットボトルを呷った後、幸助はそう切り出した。すると菜摘は「そうだね」と答え自分で買い物袋を持って立ち上がる。幸助は「持つよ」と手を差しだした。が、菜摘はそれを拒み、欽二に渡すと一緒に先に出て行ってしまった。
残されたのは、スポーツドリンク以外手ぶらで立つ幸助と、帽子とフルーツジュースを手に座る美奈という光景だった。
「何か変だな」
眼鏡の青年が漏らした。
「何が?」
「だって菜摘、今まで何度も力仕事は男の役目だって押しつけてきたじゃないか」
現に、美奈と菜摘が手荷物しか持ち合わせていないのは、前日のうちに大荷物をレンタカー組に預けたからだ。しかもそれぞれに自宅まで取りに来させたのだから徹底している。
とはいえ欽二は見た目通りの力持ちだし、幸助も非力ではない。自他共に認めるフェミニストにもその相棒にも、断る気などまるでなかったのは事実である。
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