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お盆という大きなイベントを過ぎると暦の上ではすでに秋だが、変わったばかりの季節は名ばかりだ。事実、秋という言葉をつゆも感じさせない日射しと残暑が人々を直撃している。湿気も相まって不快指数は上昇する一方だ。
このだだっ広いスーパーの駐車場は昇りつつある太陽を真っ向に受け、陽炎が立ち上りそうである。繁忙期を過ぎた平日の午前中というのもあってか、車は疎らだった。
その店舗の入り口付近の日陰に、一人の小柄な人影が立っている。白く鍔の広い帽子をかぶり、白地に水色とピンクの模様が入った丈の長いワンピースを着た、華奢という表現がお似合いの少女だ。そして、肩からグレーのポシェットを提げている。
「おはよ、菜摘ちゃん」
彼女は、目の前に現れた短い茶髪の背が高い女性に話しかけた。
「おはよう、美奈」
菜摘と呼ばれた彼女は、白のTシャツにデニム地のベスト、それから黒のスパッツという活動的な出で立ちである。その手には有名ブランドのロゴが入ったハンドバッグがある。
年齢的には美奈も菜摘もほぼ同じなのだが、前者は少女と形容したくなるくらい幼げで、後者は女性と表現した方が適当と思えるくらい大人びている。それほど二人の纏う雰囲気は違っていた。
「今日も暑いね」
「早く涼しいとこ入ろう。もうかなわない」
ここに来るまでに相当な日向を歩いてきたのであろう、額に浮いた粒の汗をハンカチで拭いながら菜摘は言った。対する美奈は今まで日陰にいたからか、うっすらと滲ませている程度だ。
「そうだね、じゃあ買い物済ませちゃおうか」
入り口の自動ドアへと身を翻した美奈の黒い長髪が、ふわりと舞った。
――彼女らはこの軽装備で、これから三泊四日の旅行に出かけるのだ。この買い物は、今日の昼食の分である。
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