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ちょうど平民で上がった所を見計らい、彼女はそこから抜けた。自分の紙コップに半ば無理矢理注がれた温くなったビールを飲み干し、苦みに眉をしかめる。美奈はこれが好きではなかった。そもそも彼女は十九歳、本来は飲んではいけない年齢である。
それから部屋の真ん中に積まれている、買い出し班が買ってきた缶の山に手を伸ばす。取ったのは梅酒。ふらふらとした足取りで人の輪を避けながら部屋の隅に行き、丸められた布団一式の上に腰を下ろした。俯くと、横に流した前髪が正面に垂れてくる。それは視界の一部を遮り、今の感情と呼応するように美奈をより沈鬱な気分にさせた。肩を落としながら大きな溜め息を一つ漏らす。
「つまんないな……ううん、違う、私が楽しんでないだけか」
缶の冷たさを両手に感じながら呟いたその言葉は、酔った人々の笑い声にかき消された。そのままプルトップに指をかけると、小気味のいい音を立てて開く。一人一つずつ渡された紙コップに移して飲むべきだろうという思いが脳裏をよぎりはしたが、どうせ孤立している自分だけなのだからと思い、直接飲もうとした。
「待って」
横から、不意に男の声がした。見れば、同じ布団に座りながら、紙コップを美奈に向けて差し出している。
「俺にも」
眼鏡を掛けた短髪の、聡明そうな青年だった。それでいてどこか、寂しげな影がある。彼は白地に青いラインが入った大学のジャージを着て、その上にグレーのパーカーを羽織っていた。レンズ越しの彼の穏やかな目を見た瞬間、何故だか彼とは仲良くなれそうな、そんな気がした。
「梅酒だけど?」
「いいよ、別に。度が強くなければ何でもいけるから」
そして彼の紙コップになみなみと注いでやり、足元に放置していた自分のにも入れる。口を付ける前にちらりと彼の方を窺うと、いっぱいになったはずのコップを、やはり彼女に向けて差し出していた。
もっと欲しい、という意味でないのは確かだ。彼が求めているものを悟った美奈は、彼の手と自分の手、彼のコップと自分のコップを触れ合わせた。ささやかな乾杯である。
「ねえ」孤独が寂しかったのか。気付けば美奈は自分から青年に話しかけていた。「そっち行ってもいい?」
同じはぐれ者としてシンパシーを感じたのかも知れない。あるいは酒のためか、彼女は警戒心を解いていた。眼鏡の青年が構わない、と答えたので美奈は腰をずらす。
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