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やがてジョッキを持って行った店員が、おしぼりに包んだ携帯をおずおずとあたしに差し出した。
「すいません……」
まだショックが続いてるあたしに、その店員はぺこぺこと頭を下げて何か言っている。
けど、何言ってるかはよく聞こえなかった。
「マナミ、帰んぞ」
おしぼりに包まれた携帯を持っているあたしの手を、突然ヒデオが無理に引っ張る。
「いた……な、何すんのよ!」
「帰るって言ってんだよ。馬鹿女」
「……!」
冷ややかに見下ろすその瞳に逆らうのが怖くて、あたしは引きずられるようにしてヒデオについていった。
外に出ると、ひんやりとした風。
温まっていない身体がぶるりと震える。
「ヒデオ」
「……」
あたしの手を掴んだまま、ヒデオは無言で歩いて行く。
その背中に描かれた感情は、明らかに怒り。
さっぱりその理由が判らない。
だから、それ以上声をかけるのは躊躇われた。
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