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それは三月の春光が降り注ぐ
麗らかなる昼下がり――
自慢でも謙遜でもないが
私の家の近くには長汀曲浦なる海があり、所謂土地的に眺望が絶品という場所に面している。
そんな 海岸線の波打際を
眠気覚ましに
ふらふらと 一人で歩いてその潮の香りと淡い群青を堪能した、
そんな――散策帰りに
私がマンションの扉を
がちゃりと、開いた瞬間――
その得体の知れない…
紅い髪のお下げに、
緑色の帽子を被った人が、
私の家から飛び出してきたのだ
「 ん 」
「みゃああッ!!」
…これでも
びっくりしてはいるんだけど
恐らく無表情なんだろうな…
とは思いつつ、いつもの癖で
観察を始めてしまう辺り何と言うか説得力は皆無だ。
女の…人。泥棒さんか
飛んでくる身体と
その顔を伺い見た所かなりの
焦燥感を滲み出している。
予測するに――
逃走を図ろうと 試みた矢先に
私を視界に捕らえ足を縺らせ…
その場合、
なんとも“滑稽な泥棒さん”
になるわけなのだけれど。
しかし現状、その泥棒さんは
私の懐へと
一直線に突っ込んでくる
生憎…私にはお姉ちゃんのように武術の心得みたいな物は無い
――どころか
飛んでくる 新聞紙でさえ顔面で受け止めてしまう程の運痴。
そんな私がこんな不測の事態に
対応出来るか否か
「…………?」
「おうっぶ!!」
答えは――否
であったが。
私はこの通り、ぶつかりも倒れもせず
然として、玄関の扉を開いたまま固まっているという状態だ。
それは…何故か?
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