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今日何回目かわからないチャイムが鳴る。
なんとなく時計に目をやると、いつの間にか授業は終わり、放課後になっていた。
本当にいつの間にだ。
今日一日の記憶がほとんどない。
どんな授業を受けたのかも、誰と昼飯を食ったのかも。
よく覚えていない。
いつもなら「俺は恋する女子かっ」と立場上反射的にツッコむところだけれど、今はそれをする元気もない。
大袈裟に言うと、誰もいなくなった世界に自分一人だけが取り残されたような、生きる意味を失った。そんな気分だ。
自暴自棄に近いといってもいい。
とにかく、あまりいい気分ではなかった。
「はぁ……帰るか」
誰かに向けて言ったわけではない。
口に出さないと、イマイチ行動意欲が湧かないからだ。
カバンを持ち座っていた椅子を机にしまうと、俺は教室を後にしようとした。
しかし、それを阻むやつがいた。
俺とあまり変わらないスラリと伸びる長身。
制服でも強調された胸に、女性らしい優雅な曲線を描く腰。
艶やかな長い黒髪は、今日も健在だった。
そして、不機嫌に俺を見つめる見慣れた少女の端正な顔。
はっきりいって、勘弁してほしい。
まだ彼女は喧嘩したりないらしかった。
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