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綾香はそんな俺の様子を余裕のある笑みで楽しむと、ベッドから離れて備え付けの冷凍庫を漁りだした。
「あんたホントいいキャラしてる。これなら女の子が寄ってくるのも分かるわ」
またからかってるのか?
冗談とも本気ともつかない発言に俺は無言を突き通す。
しかし綾香は返事なんて求めてなかったのか鼻歌混じりに手を動かし、少しして氷嚢を手に戻ってきた。
「夏樹、始業式が終わるまでそれ頭に当ててそこで大人しく寝てなさい。頭のてっぺん、大きなたんこぶできてるから」
綾香に氷嚢を渡され、俺はようやく始業式の存在を思い出した。ボールの衝撃ですっかり忘れてた。
まあでも、新人とはいえ教師から出席しなくていいとお許しがでたので気にしないことにする。
改めておそるおそる頭を触ると、ボールの当たった箇所が大きく盛り上がって固くなっていた。
幸い髪のおかげであまり目立たないで済みそうだが、それでも触れば強烈な痛みが走る。
新学期早々とんだ災難だ。
寝坊なんてするもんじゃないな。
と。
ここで、ある疑問が頭をよぎる。
俺は体を起こすと、自分の机で書類に目を通している綾香に訊いた。
「あれ? 綾香は始業式出ないのか?」
綾香は机から顔を上げ、椅子を回転させてこちらを向いた。
なぜかご機嫌斜めだった。
「そりゃ出たいわよ、仮にも新米教師なんだし。それなのに、どっかの誰かさんが保健室に運び込まれてくるから……」
「…………」
綾香の視線が冷たい。
この場合、十割俺が悪いわけで何も言い返せない。
いやでも、確かに迷惑かけたのは俺だけど、元はといえばあのくそ野球部のせいで、というか、そんなに出たいなら、俺をここに置いて出席してこいよ──
……なんて。
反抗的なことを言えるはずもなく、俺はただちに毛布をはいでその場に正座した。
家ではよくある光景だが、学校ですると少し新鮮だ。余計に沈黙の間が怖い。
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