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俺は自分が異性愛者であることを主張したが、なおも綾香からは疑惑の視線が投げ掛けられた。
「本当に? そのわりには、沙耶ちゃんに手出さないじゃない」
綾香の口から一年の時のクラスメイトの名前が出た。
俺は少しだけ顔をしかめた。
「なんで今あいつの名前が出てくんだよ。沙耶はただの友達。向こうだって、俺のことなんて何とも思ってないよ」
和泉沙耶。
彼女は、俺が高校で知り合った友人である。
何事にも熱心に取り組む今どき珍しい根っからの真面目な女の子で、教師陣からの信頼は厚い。
それでいてふざけるところふざけられる器用さを持ち合わせ、一般生徒からの人気も同様に高いという典型的な人気者だ。
おまけに容姿もずば抜けていて、背が高くて胸が大きいまるでモデルのような美人。
まさに絵に描いたような美女であり才女だ。
同じクラスだったこともあって親しくしてきたが、沙耶にとっては俺も他のクラスメイトと同列なんだろうと予想している。
沙耶は誰にだって分け隔てなく接する。そういうやつだ。
「ネガティブねー。そんなことだと沙耶ちゃん、どこの馬の骨とも知らない男にとられちゃうわよ?」
「俺はいつからあいつのパパになったんだ。それはあいつが決めることだろ。俺には関係ない」
「あっそ。そんなこと言っちゃって、あとで後悔しても知らないわよ」
忠告とも余計なお世話ともとれる言葉を残し、綾香は外からカーテンを閉め俺との空間を隔てた。
一体、俺にどうしろってんだ。
沙耶に告白でもすれば正解なのか?
俺はその光景を想像し、軽く息を吐いた。
妄想で振られたぞ俺。
「はあ…………」
俺はため息をつき、頭を枕に深く沈めた。
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