7948人が本棚に入れています
本棚に追加
横になったが寝る気にもならず。
俺はただぼんやりと白い天井を眺めて過ごした。
しばらくそうしていると、遠くでチャイムの音が聞こえた。多分始業式が終わったのだろう。
チャイムが鳴ったのとほぼ同時に、カーテンの隙間から綾香が顔を覗かせる。
「鐘、鳴ったわよ」
「聞こえてる」
「だったら早く教室に行きな。HR始まるわよ」
「分かってるよ」
綾香が学校にいることにまだ若干の違和感がある。
ぼーっとしてるせいか、ここが家みたいな錯覚を覚えた。
姉が先生っていうのも考えものだ。
公私の切り替えが難しいし、他の生徒にからかわれるのも目に見えてる。
今さら文句を言っても始まらないのは分かってるけど、それでもこれはどうもな……。
まあ、考えないのが一番か。
気持ちを切り替えようと頬を何度か叩き、意識を覚醒させる。
起き上がると、靴をはいてベッドを出た。
綾香は自分の机に向き合っていて、真剣な面持ちで何やら書類に書き込んでいた。
こういう家ではあまり見せない真面目な一面を目の当たりにすると、ただ感心してしまう。
綾香のくせに。
「じゃあな綾香。迷惑かけて悪かった」
「いいよ別に。気分でも悪くなったらまた来な。お姉ちゃんが看病してあげる」
甘く、優しい響きを持つ綾香の声。
すっかり油断していた俺は不覚にもドキッとしてしまった。
「う、うるさいっ」
俺は綾香に背中を向けたまま適当に応え、この動揺がバレる前に保健室を後にした。
素直にやばかった……。
近親にゃんにゃんも馬鹿にできないな……。
廊下に出ると、朝とは打って代わって賑やかな声が飛び交っていた 。
見慣れない顔もちらほらある。まだ緊張のとれない堅い顔からして、おそらく新入生だろう。
最初のコメントを投稿しよう!