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依然胸の中は光の温かさに包まれている。
幸せそのものだ。
けれど、その一方で、ほんのわずかな闇が存在しているのも確かだった。
底の知れない、全ての幸福を飲み込んでいく深い漆黒。
──ダメだダメだ。
樹里はおもむろに立ち上がると、机の上に飾られた写真立てを手にとる。
もう何年も前の古い写真。
体操着に身を包んだ小学生たちが、肩を抱き合って屈託なく笑っている。
もちろん樹里の姿もそこにはある。
しかし、樹里が不安そうに見つめる先にいるのは幼い樹里の隣にいる男の子だった。
いかにもやんちゃそうで、みんなの中心に立っていそうな典型的な人気者。
なぜか彼だけはそっぽを向き、幼い樹里にもどこか遠慮がちだ。
これを見ていると、心の発する警報が鳴り止んでいく。
心の闇は消えはしないけれど、その影を潜めていくのが感じられる
そうだ、私、どうかしてる。
樹里は自分に言い聞かせる。
自分が心配しているのは、もはや過去として過ぎ去ったもの。
決してこれからおとずれる未来ではないのだ。
だから心配しなくたってこれからも自分は笑って生きていける。
大好きな人たちと、大好きな時間を共有できる。
何度も何度も、暗示のようにそのイメージを刷り込んでいく。
そして、写真に向かい樹里は呟く。
「今度は、一緒にいられるよね…………?」
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