出逢いの春

3/42
前へ
/463ページ
次へ
 そして現在……俺こと神名夏樹は、必死な形相で走っていた。  全速力で、マッハで、死力を尽くして。文字通り死にもの狂いである。  正直こんな懸命な走り、体育祭でだって見せたことがなかった。  しかし、なぜ朝っぱらからこんな試練を自らに課しているのかというと。  別に毎朝の日課だとか、自身の押さえることのできない天性のMっ気を自分で慰めてるだとか、登校ついでに男子100メートル走の世界記録を塗り替えてやろうだとか、そんな理由じゃない。  理由は単純。    …………寝坊だった。  でも、これには訳があるんだと俺は言っておきたい。  ここで、ちょっと今朝のことをおさらいしてみることにする。  まず朝目覚めるとボロボロになった目覚まし時計が視界に入り、とりあえず唖然とした。  寝起きの頭はパニック寸前だった。  一体誰が? どんな恨みがあって?  一介の高校生である俺には当然身に覚えがなかった。  ていうか、一介の高校生じゃなかったところで目覚ましを破壊される覚えはない。  そして次に、右手が無性にヒリヒリすることに気が付いた。  壁を思い切り殴った時の、あの鈍い痛みだった。  ますます現状が把握できない。  俺はパニック寸前の頭のままおもむろに布団から右手を出し、目の前にかざした。
/463ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7948人が本棚に入れています
本棚に追加