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正午をとっくに過ぎたというのに、俺と結菜はいまだに噴水の縁に腰掛けていた。
会話がなくなってから、もうどれくらい経つだろう。
それすらもわからない。ただ静かな噴水の音だけが流れる。
「ふぅ……そういうことか」
気配がする。
わずかに顔を上げて見ると、結菜はまっすぐ前を見据えていた。
無表情で、そこにある感情は俺にはわからない。
「まさか、お互いに気づかないまま付き合っていたなんてね。いや、あの様子からして、樹里のほうはわかっていたのかな。ただ……どう反応していいのか、僕にはわからない」
小学校を六年間共に過ごした結菜は、全てを知っている。
俺が樹里にしたことも。それからのことも。
だからこそ、言葉にできないのだと俺は思う。
好意を寄せ合っていたとしても、それはある意味では偽りであり。
根底にある問題の解決にはなっていない。
ややあって、でも、と結菜は言う。
「気づかなかったのは僕も同じだ。何の別れもなく、突然いなくなってしまった樹里と、まさかこんな所で会えるなんて。これっぽっちも思っていなかったから。だから、というわけではないけれど、僕は夏樹を責めたりはしない。仕方のないことだと思う」
仕方のないこと。
果たして本当にそうなのか?
簡単に割りきっていい問題なのか?
放心状態で何も考えられない。
俺にはわからない。
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