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でも、今さらそんな自問自答を繰り返したところで意味はない。
あるのは、傷つけた人の隣に平気でいた自分への憤りだけ。
今さら後悔してもそれは身勝手なことだというのに、それでも止めようとしない自分が腹立たしい。
気づかなかった理由。
それは──
「樹里、か。そう言われても、君の知る人物の中に、そんな子はいないだろうな、おそらく」
俺の思考の先を行く結菜の言葉。
確かに、俺が樹里という名前で認識する少女と出逢ったのは、これが初めてだ。
「当時、あだ名で呼び合うことが流行りだった僕たちの小学校では、みんなが彼女のことをあーちゃんと呼び、樹里なんて名前を口にするやつはいなかった。ただ一人を除いて」
そう、一人を除いて。
そしてそいつは、今俺の隣に座る結菜に他ならなかった。
結菜だけが例外となったのには、ちゃんと理由がある。
名前への思い入れ。いや、誇りという言葉のほうが正しいのかもしれない。
「僕は、昔から『結菜』という名前が大好きだった。物を結ぶ。人を結ぶ。両親や友達との繋がりを常に思い出させてくれる素敵な名前だ」
「だから結菜はみんなに言ったんだよな。僕のことは結菜と名前で呼んでくれって」
自然と口をつく言葉。
結菜は頷いた。
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