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「おかしくなんかねえよ、結菜」
俺はそれを真っ向から否定する。
「俺は樹里を傷つけたんだ。今さら好きなんて、自分勝手で都合が良すぎるだろ」
「でもあれはいじめとか、そういう陰湿な類いのものじゃない。単なる気持ちのすれ違いだ。そこまで引きずることじゃない」
それは違う。
そのすれ違いで樹里は痛みを負った。
形なんてものは、結果の前では無意味だ。
「それは他人事だから言えるんだよ。樹里は泣いてたんだ。それは、俺がつけた傷が今も生きてるっていう証拠だ」
「それは……そうかもしれない。でも、樹里はずっと前から夏樹に気づいていた。その上で、夏樹のことを好きになったんだ。この気持ちを、君は無視するのか?」
なんでここまで食い下がるんだよ。
俺が求めてる言葉は、そうじゃないんだ。
「無視するもなにも。樹里は天然で抜けてるからな。俺だってわからなかったんだよ、きっと。じゃなきゃ、自分を拒絶するような俺と一緒にいるなんて、被害者である樹里は許せるわけがない」
なにかと理由をつけて、結菜の意見を潰していく。
これは俺なりのけじめ。いや、ただ逃げてるだけか。
結局、俺には過去を受け止めた上で樹里と一緒にいることを選択するのが怖くて仕方ないのだ。
だから希望なんて捨てるしかない。
受け止めるべきは、樹里を傷つけたという一点のみ。
それだけで十分だ。
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