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結論の出ない会話に結菜は徐々に苛立ちを見せ始める。
「あれはダメ、これはダメ。夏樹、君はどうしたいんだ。それでも本当に樹里のことを好きなのか?」
そんなの──愚問だ。
「好きだよ。だからこそ、樹里を思って俺が離れないといけないんだ」
初めて好きになった彼女。
その子が少しでも幸せになれるなら、喜んで自分を押し殺すことができる。
俺は都合よく樹里に責任をなすりつけていく。
それがどれだけ最低なことか理解しているはずなのに、俺は薄く笑っていた。
結菜はなんて言うかな? なんて、樹里を諦めて腑抜けになった俺は呑気に考える。
しかし、その答えが出るより先に、目の前を何かが飛び、俺の頬を思い切り打ち付ける。
「──────!」
パン、と。
乾いた音で現実に引き戻される。
じわじわと熱い痛みが頬から全身に伝わる。
頬をおさえる俺の先にいる結菜は、平手打ちを振り抜いたままの姿勢で俺に怒りをぶつけてくる。
こんな結菜を見るのは初めてだった。
時間が流れる。
結菜は何も言わず、ただ俺を睨み付けてくる。
感情が言葉にならないのか、口元がわなわなと震えていた。
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