樹里の秘密(後)

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 結論の出ない会話に結菜は徐々に苛立ちを見せ始める。 「あれはダメ、これはダメ。夏樹、君はどうしたいんだ。それでも本当に樹里のことを好きなのか?」  そんなの──愚問だ。 「好きだよ。だからこそ、樹里を思って俺が離れないといけないんだ」  初めて好きになった彼女。  その子が少しでも幸せになれるなら、喜んで自分を押し殺すことができる。  俺は都合よく樹里に責任をなすりつけていく。  それがどれだけ最低なことか理解しているはずなのに、俺は薄く笑っていた。  結菜はなんて言うかな? なんて、樹里を諦めて腑抜けになった俺は呑気に考える。  しかし、その答えが出るより先に、目の前を何かが飛び、俺の頬を思い切り打ち付ける。 「──────!」  パン、と。  乾いた音で現実に引き戻される。  じわじわと熱い痛みが頬から全身に伝わる。  頬をおさえる俺の先にいる結菜は、平手打ちを振り抜いたままの姿勢で俺に怒りをぶつけてくる。  こんな結菜を見るのは初めてだった。  時間が流れる。  結菜は何も言わず、ただ俺を睨み付けてくる。  感情が言葉にならないのか、口元がわなわなと震えていた。
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