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やがて、震える声が微かに耳に届く。
感じていた頬の痛みが、どこか遠くに感じた。
「そんなの……自分が樹里に拒否されるのが怖いだけじゃないか……。それを自己犠牲にすり替えるなんて、君は最低だ……!」
何も言い返せない。
自分でわかっていたはずなのに、結菜から放たれたその言葉は軽蔑に値するほど身勝手に満ちていた。
吐き気がする。
結菜は我慢しきれず、怒りに震えながら涙した。
その姿を見て、俺はぼんやりとした頭で理解する。
──俺はまた人を傷つけた。
「…………ごめん」
あの時は言えなかった言葉を、俺は口にする。
結菜は唇をキュッと結び、何も答えてくれない。
そして、何も言わないまま俺の横を通り過ぎ何もなかったように行ってしまった。
去り際に残った結菜の香りが、胸を締め付ける。
逃げ道すらなくなってしまった俺はこの先、どうしたらいいんだ……?
否定される怖さはいまだ拭えず、かといって過去を受け入れた上でもう一度樹里に手を伸ばすことも躊躇われて。
結局のところ、俺は目の前にある扉すら開けることのできない、ただの臆病者だったようだ。
そして、それを否定しようという気力すら残っていない今の自分が何よりも情けなかった。
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