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「ふぅ……」
なぜかホッと胸を撫で下ろしている自分がいる。
決意がどれだけ脆いかは明白だった。
「おはよっ」
突然の呼び掛けに俺は反射的に体を強張らせる。
振り向くと、そこには沙耶が立っていた。気のせいか俺を見る目が怪訝だ。
「お、おう。おはよ」
「何? 朝からビクビクしちゃって。軽犯罪でもしてきたの?」
「そんな手軽で警察沙汰な寄り道あるか。ただ驚いただけだよ」
「ふーん」
そっか、と。
どうでもよさそうに相槌を打ち、沙耶は俺の隣に座る。
どうも気まずくてやりづらいな…………。
耐え難い沈黙も束の間。
カバンから教科書を取り出す沙耶は、俺を見ずに何やら話し出した。
「あんた、いい加減にしなさい。なに意地になってんのよ」
脈絡のない話が始まり、俺は眉をひそめる。
「何だよそれ。朝から意味わかんないぞ」
対抗するように、俺も沙耶の方を見ないで答える。
「しらばっくれても無駄よ。樹里と何かあったんでしょ?」
「…………」
沈黙。
それは肯定を意味していた。
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