『思い』と『想い』の狭間で

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 はぁ、と。  沙耶は悩ましげにため息をついた。 「あたしはあんたと樹里の間に何があったかなんて知らないし、ましてや首を突っ込む気なんてさらさらない。あたしに言えないっていうことは、それはきっと、二人がどうにかしないといけない問題だと思うから。──でもね」  一呼吸の後、容赦ない言葉が降り注ぐ。 「はっきりいって、夏樹、最近のあんたを見てるとイライラするのよ。誰にも助けを求めずに、そのくせ一人でぐじぐじ塞ぎ込んで。そうやってれば、誰かが優しく声を掛けてくれるとでも思ってるわけ? あんた何様のつもり?」 「…………!」  その通りだ。  ここ数日間の俺を見てれば当然抱くべき嫌悪感だし、隣で嫌でも目についてしまう沙耶からしたらなおさらのことだと思う。  それくらい今の俺は目障りだ。  わかってはいる。  でもその一方で、沙耶は何も知らないからそういう辛辣な言葉が出てくるんだ、という被害者ぶった一面が俺の中にあるのも確かだ。  ──俺が背負った痛みも。  ──失った日常の重さも。  ──まだ見ぬ未来への絶望も。  沙耶は何一つ知らない。  そして、その事実は俺に怒りの炎を灯す。  間違っているとわかっていても、俺にそれを真摯に受け止めるだけ余地も余裕もない。 「部外者は黙ってろ。何にも知らないくせに口出しすんじゃねえ」  敵意に満ちた声が、口から吐き出される。  驚くほどに低く、冷たかった。
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