『思い』と『想い』の狭間で

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 今まで澄ましていた沙耶の表情に亀裂が走る。  動かしていた手を止め、睨み付けるように俺を見る。 「それ、本気で言ってるわけ? 樹里が、あたしの親友が苦しんでるのに、あんたは放っておけっていうの? 夏樹も冷たくなったんだね。軽蔑する」 「好きにしろ。樹里のことが心配なら、樹里の力になってやればいい。俺に構うな」  そう吐き捨てると、ちょうど担任の角が教室にやって来て会話は中途半端に終了した。  不満を残したままお互いにそっぽを向き、それ以降、沙耶から話し掛けてくることはなかった。もちろん俺からも。  はっきりいって不愉快だった。  沙耶にじゃない。自分の弱さにだ。  事実を指摘され耐えきれずに沙耶に当たるなんて、俺は最低に成り下がったもんだ。  樹里を傷つけたあの日から、何一つだって成長していない。  俺は弱いままだ。  授業中、ずっと俺は上の空だった。  ノートをとるわけでもなく、かといって惰眠をむさぼるでもなく、ただ無気力に時間を消費する。  時折、肩越しに後ろを確認する。  眩しい笑顔が咲いていたはずのその席に、彼女はとうとう姿を現すことはなかった。  樹里…………。  あの日々に──まだ真実を知らずに、彼女の隣で笑えていた日々に戻りたいと俺は思った。  でも、そんな願いが叶わないことくらい知ってる。  日々は流れていく。  その流れに身を投げ出したら最後、死という終着点に着くまで人は止まれない。  残された道は、前に進むことだけ。  でも道標を失った俺は前がどっちなのかもわからず、膝を抱えるだけだった。
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