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俺はわざとらしくため息をつくが、目の前の彼女──沙耶は別に気分を害した風もなく、有無を言わせない口調でこう言った。
「夏樹、話があるの。ちょっとだけいい?」
判断を下す間もなく、手首を掴まれどこかに連行される。
「ちょっと待てよ。まだいいとは言ってないんだけど。つーか、俺の話聞いてる?」
「…………」
返事はない。
あの背中で何かを語っているのだろうか。
かっこいいけれど、残念なことに俺には何一つとして伝わってこない。
お前は俺のパパか。
口で言え口で。
どこに連れて行かれるのだろうという俺の不安をよそに、沙耶は迷いのない足取りで進む。
体育倉庫にでも俺を連れ込み、さっきの苛立ちを拳でぶつけるつもりだろうか。
怒らせたからな……。
仮にそうなったら、明日の朝刊の一面はいただきだ。
まあおそらく、俺は家か病院のベッドで痛みに唸ることになるけれど。
…………嫌だ。
と、冗談はここまでにして。
「ここよ」
「…………あのさ、沙耶」
「なに?」
「屋上で俺をどうする気だ?」
沙耶がはぁ? と首を傾げる。
今俺と沙耶は、四階に位置する屋上の出入口に立っている。
ただ校則で出入りを禁じられているため、当然のことながら鍵はしまっている。
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