7948人が本棚に入れています
本棚に追加
俺には沙耶の真意が読めない。
屋上って。飛び降り自殺に見せかけた他殺パターンとか、体育倉庫より現実味が増して嫌だ。
しかし、沙耶は鍵を取り出す気配がないので、どうやらこの屋上前の密室空間で俺をどうにかしたいらしい。
さて、と。
腹をくくろう俺。
「よし。沙耶、話ってなんだ?」
「そんな大したことじゃないわ。少なくとも、夏樹の名前が全国放送されるような展開じゃないから。安心して」
「そんな展開をおまえが思いついてる時点で安心できねえよ……」
いつものようには盛り上がらない。
沙耶もそんな気分じゃないことぐらい見ればわかる。
言ってみれば、今のやりとりは大事な話をする前のほんの気の紛らわしだ。
和みかけた空気を引き締めるように、俺は真面目な表情を作る。
目の前の沙耶は、わずかだけどなぜか苦笑している。
「夏樹は覚えてる? 球技大会の前日に、あたしが言ったこと」
「また唐突だな。まあ、覚えてるけど。悩みがある、とか。確かそんなことだったよな」
「うん。意外とバカなのに、こういうことはちゃんと覚えてるんだね」
「うっせえ」
沙耶が笑う。
でも、その顔からは依然として追いつめられたような、疲れの色が感じられ。
それが俺に不安を与える。
最初のコメントを投稿しよう!