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「沙耶…………何かあったのか?」
訊いたところで、沙耶の表情を見れば明らかだ。
でも、訊かずにはいられなかった。
しかし、そんな淡い希望はすぐに捨てることとなる。
「……まあね」
沙耶は言った。
「あたしなりに頑張ってみた。でも──ダメだったよ。もう我慢しすぎて、頭がおかしくなりそうだよ」
一言、また一言。
弱音をこぼすたびに沙耶の声が震える。
ドアの曇りガラスから差し込む夕日が、沙耶の今にも泣きそうな顔を照らす。
「沙耶……?」
「あたし、夏樹が好きだよ──」
………………え?
沙耶の言っていることがわからなかった。
一体、何を言っているんだ……?
「いや、意味わかんねえよ。今はそういう話をしてるわけじゃ──」
「これがあたしの悩みだよ。知ってた? 一年の時から、あたしは夏樹のことを見てたんだよ。ずっと、ずっと」
沙耶にふざけている様子はない。
胸を締め付ける切実な声は、まっすぐに俺に届いて心を乱す。
「理由なんてわからない。でも、夏樹はあたしの中でいつの間にか特別な存在になってた。あたしだけを見てほしいって、そんな風に思った」
俺は驚くしかなかった。
あまりに沙耶の気持ちが大きくて、いつもの軽口なんて叩けない。
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