『思い』と『想い』の狭間で

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 それでも俺は言葉を必死で探す。  俺への好意=悩みという図式は、どうも腑に落ちない。 「な、なら言ってくれれば良かっただろ。何もそこまで悩む必要なんてない」  無茶苦茶なことを言ってるのは承知している。  俺も経験したからわかるけれど、ありのままの自分を晒すことはとてつもなく勇気を伴う行為だ。  誰だってその思いを否定されたくない。  現状に甘んじたくなる。  人は恋に臆病な生き物だ。  しかし、沙耶の悩みはそんなに単純なことではなかった。  俺の経験した苦しみでは、量り知ることすらできない痛みがそこにはあった。 「無理だよ、そんなの。あたしが告白したら、辛いのは樹里なんだよ」 「え…………?」 「あたしが夏樹に対する気持ちを認めた時には、樹里がいた。二年になって知り合って、すぐに仲良くなって……。親友だと思える頃には、樹里の気持ちなんてすぐにわかった。だってあたしと同じなんだから。嫌でもわかるよ」  じわじわと、沙耶の弱音が今さらわかる。 『あたしさ、最近自分が焦ってるのに気づいたの。理由もなんとなくだけどわかってる』  樹里が転校してきたから。  同じ異性に思いを寄せる親友の出現が、沙耶を追い立てた。  沙耶は俺にそれを伝えようとしていたのに。  俺はそれに気が付いてあげることができなかった。
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