『思い』と『想い』の狭間で

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 自分の恋で一杯だったあの時の俺に、その隠された沙耶の気持ちを理解することなんてできなかったと思うし、理解したところで、俺のしてあげられることなんて何もなかった。  仕方ないと流せばそこまでの話だ。  考えたって、もうどうしようもない。  でも、目の前の少女──親友にすらすがりつくことができず、ボロボロになった沙耶を見て割りきれるはずがない。  沙耶はとうとう俯き、体を震わせる。  いつもの強気な彼女の姿はなく、思いと想いの狭間で揺れるただの女子高校生がそこにいた。 「あたし、頑張ったんだよ……。親友を傷つけたくないから、一生懸命我慢したんだよ……」  自分を認めてほしい幼い子供のように、沙耶は訴える。 「でも、最近の沈んだ夏樹を見てたらもう我慢なんてできない。──ねえ、助けてよ…………」  夏樹、と。  沙耶は力なく俺の体にもたれかかり、腰に細い腕を回す。  沙耶の甘い匂い。  柔らかな女の子の感触。  温かい涙の温度。  小さくもらす嗚咽。  一瞬にしてそれらが俺の苦しみを無防備にする。  樹里を傷つけた痛みが、沙耶の温かさで和らぐのを感じた。
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