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沙耶の肩に手を添えたまま、しかし俺ははっきりと今の気持ちを口にする。
「沙耶、ごめん。沙耶が俺なんかに告白してくれたのは嬉しいよ。これは本当。──でもさ、俺は自分の気持ちに嘘をついて後悔したくないんだ。樹里から逃げたくないんだ」
本当の気持ちなんて、結菜を泣かせた時にはっきりしたはずだ。
答にたどり着いているなら、何を迷う必要がある。
進むべき道はもう決まってるんだから。
「…………そっか。残念」
沙耶を少し悲しそうに、けれど目を反らすことなく俺の前に立っている。
願いが叶わなかったというのに、その表情はだんだんと柔らかくなっていく。
沙耶は笑った。
「ああースッキリした。もしもさ、夏樹があたしを選ぶような人だったら、あたしは多分夏樹のことを嫌いになってた。結局さ、初めからこうなることは決まってたんだよ。運命ってやつ?」
沙耶が俺の手をどけるために、一歩下がる。
俺に強気な視線を向ける彼女は、いつもの沙耶だった。
「答、決まってるんでしょ? だったら早く帰りな。失恋したあたしは、人目もはばからずに一人泣くことにするから」
しっしっ、と沙耶が手で払う。
何も言えずにいると、俺の背中を無理やり押しだす。
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