7948人が本棚に入れています
本棚に追加
沙耶を気遣うこともできず、とうとう俺は強制下校をすることになった。
戻ることも考えたが、すでに沙耶が泣いている可能性もあり、それを俺に見られることが沙耶にとって一番辛いはずだ。
結局のところ、俺はこの場から一刻も早くいなくなることが最善の行動のようだった。
俺は重い足をなんとか動かし、階段を少しずつ降りる。
しかしちょうど二階部分に到達したところで、明らかに俺のことを待っていたといわんばかりに壁にもたれ掛かる男の姿があった。
「よっ、お疲れ」
「愛斗……」
愛斗は俺に近づくと、労るように肩を叩く。
「一人でいるところを見ると、沙耶はフラれたってことか」
「おまえ、知ってたのか?」
「それくらいわかるに決まってんだろ。俺は沙耶が好きだからさ。なんだってわかるんだよ」
いつもと変わらず、沙耶への思いを当然のことのように口にする愛斗。
俺にはそれが遠まわしな怒りに聞こえた。
どんな理由があったとしても、自分の好きな人が傷つくのを見過ごせるわけがない。
何も愛斗に限ったことではなく、それは誰もが持つ感情だ。
だから、その怒りを受け止める覚悟はできていた。
愛斗の気が晴れるならそれでいい。
最初のコメントを投稿しよう!