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気持ちが緩みきったせいか。
ふと、俺は綾香に話を聞いてほしいと思った。
誰にも言わなかったこの心情を。
当たり前のようにそばにいてくれる姉に、聞いてほしいと思った。
「…………なあ、綾香」
「ふふっ、なに?」
「少しだけ聞いてくれないかな。俺の話」
「いいよ。お姉ちゃんに話してごらん」
綾香の声が優しく響く。
飾る必要なんてない。
うまくまとめる必要なんてない。
ただ思ったことを、思うままに口にするだけ。
「実はさ、俺と樹里って同じ小学校だったんだ。名字変わっててわからなかったけど、最近になってそのことを知った」
「うん」
「まあ、本来ならなんてことのないことなんだけど、俺と樹里の場合はちょっと複雑でさ。それが原因で、今あんまり上手くいってないんだ。もう一週間近くも話してない」
「うん」
「それが辛くってさ。俺としては、今すぐにでも樹里と仲直りしたいと思うんだよ。早く声が聞きたい。でもさ…………怖いんだ、俺」
「怖い? どうして?」
心配するでもなく。
呆れるでもなく。
綾香は相づちを打つように、疑問を口にする。
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