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俺は何気なく口にしようとしたが、言葉が出てこない。
いつの間にか体が震えていた。
「夏樹?」
「姉ちゃん……怖いよ俺…………」
不安に耐えてきた心が、ついに悲鳴を上げた。
目頭が熱くなり、涙の粒がゆっくりと頬を伝う。
溜め込んだ感情が溢れて俺は初めて自分の不安、そして樹里への想いの大きさを知った。
「俺、ずっと前に樹里のこと傷つけて、大嫌いって言って…………。本当は大好きだったのに、友達をとられてるとか勝手に思い込んで…………」
当時は、自分のことしか頭になかった。
だから『嫌い』なんて言葉を平気で使えたんだ。
口にしたところで、誰一人として幸せにならないというのに。
後悔して気づいた時には、もう手遅れだというのに。
「樹里は俺のことを恨んでる。そんなの、傷ついた側からしたら当然の感情なんだから、拒絶されたところで文句はいえない。自業自得なのはわかってる──でも……俺、まだ樹里が好きだよ……大好きだよ…………」
忘れようとしたのに、想いは募るだけ。
忘れられるわけがない。
俯くと、大きな涙が床に敷かれたカーペットに小さなシミを作る。
喉が強張り、うまく声が出ない。
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