出逢いの春

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 まだ春だっていうのに汗は滝のように次から次へと吹き出し、ワイシャツが体にピタッと張り付く。  げっ、中にシャツ着てくるの忘れてた。  しかし、気が付いたところで時すでに遅し。  今さら家に戻れるわけもなく、言い難い不快感を飲み込んで走り続ける。  ネクタイを緩め首を締め付けるワイシャツのボタンを一つ外すと、俺はラストスパートと言わんばかりにさらに加速をつけた。  入学シーズンに相応しく通学路を彩る桜並木から風情豊かな花びらがひらひらと舞い落ちてくるが、さっきから顔に直撃して非常に鬱陶しい。春の風物詩も、今の俺にとってはただの嫌がらせだった。  口に入ってくんなよ。乾くだろうが。  ぺっぺっと俺の残り少ない貴重な水分を吸いとってべちゃべちゃになった春の代名詞を吐き出し、さらに走る足に力を込める。  しばらくすると、終業式以来、久しぶりに見る学校の正門が見えてきた。  ポケットに入った携帯で確認すると、時間は八時五十分。  おそらく、全校生徒が体育館に整列し出したところだろう。ギリギリセーフだ。 「ま、間に合った。人間、やれば、できんだよ……」  息も絶え絶えになりながら一人勝ち誇ってみた。  体力は無いに等しいし、そもそも寝坊しなきゃいいじゃんっていう話なんだけれど、ゴールテープを切る時みたいな圧倒的な達成感が溢れる。  校舎は目の前。  俺は思わずガッツポーズを決め込んだ。  ──と、その時、甲高い金属音が遥か遠くの方から鳴り響いた。 「? なんの音だ?」  俺は足を止め辺りを見渡すが、特に何も見当たらない。  気のせいか。  立ち止まっている時間も惜しいので、俺はすぐに歩みを再開する。
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