出逢いの春

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 気を取り直し、俺は校舎に入ろうと足を踏み出す。  しかし、ここで突然。  側頭部に鈍い衝撃が走った。視界が大きく揺れる。  …………へ?  視界がぐにゃりと歪む。  平行感覚を失い、俺はなす術もなく地面に這いつくばった。  幸いにして膝から崩れ落ちたので頭が地面に直撃するのは回避できた。  だが、側頭部が火を噴いたように痛む。  っ、痛え……。  意識をもってかれるって何ぶつけたらこうなるんだよ。  始業式に参加したいだけなのにこの仕打ち。理不尽だろ。  俺は残った意識で懸命に立ち上がろうと試みるが、体に力がまったく入らない。  ゴールを目前なのに。  このままここであと十分死体ごっこを続ければそれで今までの努力が水の泡だ。冗談じゃない。  分かってはいる。だけど、意識は依然あいまいで一向に立ち上がれる気がしない。  どうしようもなく、俺は虚ろな目ですぐそこにある昇降口を捉える。  と、視界の隅から何かが転がってきて、横たわる俺の顔の前で止まった。  何かと思って視線を昇降口から落とし、俺は呆気にとられた。 「ボ、ボール……?」  それは、赤い刺繍を身にまとった泥々の野球ボールだった。  しかもどう見ても硬球だ。  偶然転がってきたとは思えない。  おそらく、というか絶対これが俺の頭に直撃したものの正体だ。  納得するとともに、頭の容態が心配された。  ヘルメットもなしに直にこいつを喰らった俺の頭は無事なのか?  ただてさえ貧弱な脳ミソなのに、これ以上劣化したらどうしてくれんだよ。  どこからか足音がした。  頭だけ辛うじて動かすと、校庭の方から慌てて走ってくる二つの人影が見えた。  どちらも野球のユニフォームを着ている。きっとこのボールを俺にぶつけた張本人なんだろう。  始業式前に、なにのんきに野球してんだよ。遅刻するぞ。こんなとこに凶器ぶちこんでる場合か。  意識は朦朧とし、本来怒るところなのに普通にツッコんでしまった。  この感じだと、俺の脳ミソはいい感じにシェイクされてるんだろうなー。  ……呑気か。
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