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「き、君、大丈夫!?」
「いや、どう見ても大丈夫じゃねえ! 死んだ魚の目してるぞ! 保健室だっ!」
分かりやすく慌てる犯人と思しき坊主頭の二人。良く見ると俺と同じ二年生だ。
知り合いではないけれど、同じ階でよく見掛けるから知ってる。
ていうか、俺今死んだ魚の目してるのか……。
野球部員二人は両側からそれぞれ俺の肩を担ぐと、校舎入り口でスパイクを脱ぎ、俺の足を引きずりながら一階の奥にある保健室へと向かった。
うなだれると、鼻を運動部特有の刺激臭が襲う。
冗談抜きでこれだけでも昇天しそうだ。
ボールの当たった衝撃とは違う意味で失神しそうになるのを辛うじて堪えていると、不意に二人の足が止まった。
どうやら保健室に着いたらしい。
野球部二人のうちどちらかがドアを慌ててノックをすると、中から落ち着いた女の人の声が返ってきた。
二人はドアを開け中に入ると、入口で立ち止まる。
「どうしたの? もう始業式始まるわよ」
「すいません。実は、朝練で打った球が彼に当たっちゃって……」
「あら、そうだったの」
申し訳なさそうに事情を話す野球部たち。
しかし、別段、保健の先生と思われる女の人の声に責めるような節は見られない。
いや、この状況でそんな呑気にしてる場合かよ。
俺の頭をもっと心配してくれよ。
俺はよく知らない二人に担がれながらそんな感想を抱いていると、優しく頭に手が添えられた。
温かくて、小さくて、柔らかい。
保健の先生バンザーイ。
文句も忘れて慣れない女性の感触に大興奮する俺だった。
その手は俺の黒髪を掻き分ける。
そして、
「あちゃ~、真っ赤に腫れてる。これは痛いよね」
と、先生は苦々しそうに俺の怪我の状況を教えてくれた。
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