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ふむふむ、と保健の先生は傷口を見て何やら納得している様子。
一通り診察すると俺の頭から手を離し、野球部員たちに話しかける。
「とりあえず大事はないみたい。でも、今度からは気を付けなさい。女の子にでも当たったら大変よ」
「す、すいませんっ!」
先生は説教というよりもあくまで普通な調子で注意し、二人に空いているベッドに俺を寝かせるよう指示を出した。
カーテンがシャっと勢いよく開けられ、俺は柔らかいベッドにゆっくりと横たえられた。
「じゃ、じゃあ俺たちは失礼しますっ!」
「はーい。あなたたちも早く着替えて始業式に出なさい」
「はいっ!」
威勢のいい返事をして、野球部二人は駆け足で保健室をあとにした。
次第に足音が遠ざり、やっと落ち着ける環境が整った。
……静かだ。
ようやく訪れた安息の時間に気が緩む。
かろうじて保ってた意識が今にも離れていきそうだ。
なんて心地いいんだろう……。
ふわふわした甘い香りはするし、耳元で熱のこもった風が──ん?
「夏樹、先生といいことしよっか……」
学校では聞くはずのない、不健全かつ犯罪の匂いがプンプンするフレーズが俺の鼓膜を揺らした。
途端、怪我などまるでないかのように俺は跳ね起きた。
「で、でも先生! 俺たち、まだお互いのことをよく知らないわけだし、そういうことは付き合ってから──」
テンパり過ぎてつい真面目に応えてしまった。純情なのである。
俺は顔を真っ赤にし、声のした枕元を見た。しかし、声の主を目にした瞬間、俺は鳩が豆鉄砲を喰らったみたいに目を丸くした。
「へぇー、夏樹って案外純情なんだね。お姉ちゃん、感心感心」
「あ、綾香っ!?」
なんと声の主は、俺の知り合い──というか、正真正銘、血の繋がった姉の神名綾香だった。
予想外の登場に声も出ない。
え、なにこのシチュ……?
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