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俺は身の危険を感じ、すかさずベッドの端まで後ずさる。
綾香は呆れたようにため息をつき、腰に手を当てた。
「そんなわざとらしく驚かなくてもいいじゃない」
「な、なんで綾香がここに……?」
「あんた頭打っておかしくなった? なんでって、先生だからに決まってるじゃない。まあ、学校で会うのってこれが初めてだから驚くのも無理ないけどさ」
「そういえば……すっかり忘れてた……」
そう。この大学卒業したてのまだ二十歳そこそこ、お肌もピッチピチの見た目麗しき女性、というか我が姉が先生なのである。
今日赴任したばかりのまさに新人教師で、担当は見ての通り保健。
長く伸びた、教師として許容範囲くらいに明るく染めた髪を頭の後ろでまとめ、私服に近いパンツ姿に白衣をまとう綾香は、弟の俺が言うのもなんだけれど保健の先生としてけっこう様になっていた。
元の容姿の良さも相まって、普通に美人教師だ。
これが実姉じゃなかったら結構な量の欲望で悶々するんだろうけれど、あいにく、弟の俺はため息をつくだけだった。
「ていうか、綾香。さっきの先生にあるまじき台詞はなんだよ。返答次第では問答無用で警察に突き出すぞ」
「いやね、夏樹も思春期真っ只中の男の子だからさ、先生との禁断の愛もその有り余る若さでOKなのかなあ~って思って」
「ノリが軽いなおい……。仮に襲われてたらどうすんだよ」
「あたしは構わないよ? 近親にゃんにゃん」
にゃんにゃんって……。
軽く時代錯誤してないか?
平然と危ない性癖を見せてくる姉だが、俺だって馬鹿じゃない。
あれが冗談だってことくらい百も承知だ。
綾香は俺が弟でなおかつ女に奥手なのをよく知ってる。
だから、あんな大胆な行動をとってくるんだ。
すでに幾度となく経験してきたやり取りだけれど、正直あまり気分は良くない。
子ども扱いされているみたいで少し腹が立った。
くそっ、今度こそはマジでそのわがままボディを襲うぞ。
……まあ、どうせ無理なんだけどな。
俺は自分の意気地のなさが情けなかった。
これだから草食系は。
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