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「出迎えに行けなくてすまんかったな。だが今度からは電話くらい入れてくれ。」
ニューヨークのけたたましいクラブとは違う静かで落ち着きのある佇まいの中、鬼津 恭一は眉間にシワを寄せながらグラスを傾けたのだった。
仁はさも申し訳なさそうに頭を下げて見せるが…それが信頼に値するものには思えない。
「すいません、叔父貴。至急お伝えしたいことがあったので…。」
「だったら電話でも良かっただろ。」
「電話だけでは色々と危ないと判断したんです。今のニューヨークは不安定で━━━━━━」
不安定…その表現と大袈裟に見える仁の表情に違和感を覚えた。
「ニューヨークが不安定だったのは前の話だろう?『アークファミリー』とコロンビアのアホ共の喧嘩も終わって平穏だって聞いてるが。」
「そうですね。『アークファミリー』みたいな巨大な組織が刀を収めたおかげで平穏にはなりましたが、でもそれはあくまで外側の話なんです。」
━━━━全世界にその体を横たえる『アークファミリー』と、無謀にも宣戦布告して潰されたコロンビア系組織の抗争は誰もが知っている事だ。
その抗争で戦場になったのはニューヨークだけだが、皆一様に被害を被らない為に対策を練ったものだが…彼の『話』はそれより重要らしい。
「じゃあ『内側』には何がある?」
「…率直に申し上げます。今のニューヨーク支部長は組織に不利益をもたらすだけの存在です。」
思いもよらない言葉に、恭一は言った。
「し、支部長って剛の事か?剛がどんな奴が知らんクセによくそんな事が言えたモンだな。」
「勿論、私は叔父貴みたいにボスとの付き合いは長くはありません。しかし付き合いが長いとしても、彼の組織に対する今の忠義は疑わずにはいられないのです。」
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