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人間のものとは思えぬ牙を剥き出しにして唸った奴の姿はまさに獣のそれで、奴が放つ並々ならぬ殺気は恭一の足を竦ませて動くことを許さなかった。
マズい━━━━恭一がそう思い、死を覚悟したその時だった。
「ボス!」
その声で我に返ると奴との間合いを一気に開き、すると部下達の一斉掃射が奴を捉えた。
それで少しばかり体勢を崩したそいつは舌打ちすると、踵を返して暗闇の中へと消えてしまった。
「ボス!ご無事で!?」
部下達が辺りを警戒しながら訪ねてきた。
「あ…ああ、俺は大丈夫だが、古塚が…。」
今更確認する必要などあるまい。仁は地獄に行ったのだ。
部下達はそれを認識したようで、仁の亡骸を見るなり口元を押さえた。
「ボス…これは━━━━」
「やられたよ。あんな殺気は初めてだ。何者かは知らんが、ありゃバケモンだ。人間じゃない。」
「そうですね━━━━自分たちもかなりの弾数を撃ちましたが殆ど当たらず、しかも何発かは当たったはずなのにあの身のこなし…尋常ではありません。」
「とにかく、奴を探す網を張れ。ただしすぐに殺そうとは思うな。まずは奴の身辺調査が先だ。あんなのと真っ正面から殺り合うのはナンセンスってモンだ。」
部下達は返事をして各々動き出し、恭一は懐で携帯電話が震えているのに気がついた。
表示された番号は、東京にある上級幹部会の事務所のものだ。
「はい。」
(鬼津か?俺だ。ニューヨーク支部の古塚がそっちに行ってるってのはホントか?)
上級幹部から直々に電話とは…恭一は返した。
「ええ。それが何か?」
(日出から電話があってな。古塚に不穏な動きがあるらしい。)
「その件ですが…古塚は死にました。」
電話の向こうが一瞬無音になり、溜め息混じりの言葉が返ってきた。
(何があった?説明しろ。)
「今は立て込んでますんで、一時間後にこちらから電話致します。では。」
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