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「おはようございます、叔父貴。」
バーナードの挨拶に恭一は頷きながら言った。
「聞いたぜ?今夜はハイキングらしいな。」
「叔父貴も一緒にいかがです?」
「歳をとると少しの運動でも体に響くんでな。せっかくだが遠慮する。」
椅子に座りながら何やら書類に目を通していた恭一が机の上にそれを置き、バーナードを見た。
「で、今日はどこから叩く?いくつかあるんだろ?」
荒れ果てた港湾地区を望める事務所の窓の彼方、多数の船舶が停まっているそこを見据えてバーナードは言った。
「フロートシティです。あの中にロシアンマフィアの貿易商社が入っているという情報がありましたので、そこをあたろうかと思います。」
「そういえばあったな、そんなん。確か輸入雑貨なんか取り扱ってる店も出してるって。」
「ええ、奴等の船が出入りしているので"ファンピール"の素性を辿るには最適かと。」
ふうん、と頷いて煙草を出した恭一はどこか怪訝そうに…探るように訊ねる。
「バーナード、ずいぶんと奴の正体を知りたがるな。何かあったのか?」
「いえ、特にありません。奴が何者であるにせよ、付け入られる隙をなくすために奴を知る必要があると感じただけです。」
━━━━本音だった。単純に奴を確実に仕留め、尚且つ他に敵対的な存在がいないかを知れば組織の為になると思っての行動だった。他意はない。
バーナードの言葉に納得したのか、恭一は頷きながら煙草の灰を灰皿に落とした。
「なるほどな…まあ奴を仕留められりゃなんでも構いやしないんだがな。」
「用心に越したことはありません。私の知る限り、あのような人間に似た化け物は見たことがありません。」
「だが奴も人間だ。刃物で切れるし鉛弾をぶち込みゃ棺桶に突っ込めるはずだ。」
マチェットを振り回して人肉を食いちぎる"ファンピール"を目の前にして奴を人間扱いする恭一は人格者なのか、或いは単なる無関心なのか…だが殺意は紛れもない本物であった。
だが恭一の言うことは正しい━━━━現に"ファンピール"はバーナードの銃弾を受けて流血している。
何かドラッグでも使っているのか…それにしてもあの跳躍力や筋力は異常だ。
「ロシアンマフィアを辿れば何かわかるはずです。」
「わかった。竹田はどうする?」
「竹田が"ファンピール"と繋がっているならば考えがあります。私のプランで竹田については片が付くかと。」
バーナードが自信満々に答えると、恭一はニヤリと笑った。
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