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家無き者が覇気のない顔を俯けながら壁や階段に体を預け、空き缶やビニール袋があちらこちらに見られる駅構内は殺伐とした空気に満ち溢れていた。
釧路へのアクセスはその殆どが高速道路や海や空の航路となった今、釧路駅の利用者が減っているのは十分知っていた満にこの荒れた様は容易に納得できた。
閉ざされたシャッターに挟まれた通路は切れかかった蛍光灯の点滅にかすかに照らされ、そのつきあたりにコインロッカーは並んでいた。古い旧式のコインロッカーは電子マネーなどに対応しておらず、しかも投入した硬貨が戻ってこない代物。
周りの荒廃ぶりもあってか、コインロッカーの鍵が使えるかどうかまで不安になってきていた。
並ぶコインロッカーの奥…鍵に付いたタグと同じ番号の鍵穴を見つけ、差し込む。
━━━━カチッ。
満の心配をよそに鍵は呆気なく解錠され、その扉に手をかけた。
中にあったのは…まず目に付いたのは写真立てだ。写っているのは2人の男と1人の女で、どれも満の知らぬ顔だった。
だが、一方で動悸が激しくなるのを感じた。
目尻からこぼれる滴…それは満の涙ではなかった。
「これ…あんたの友達なのか…?」
━━━━満の中にある遥か彼方のほの暗い闇の中から、何か感情が流れてくる。止まることなく溢れ出る涙。
胸を締め付ける痛み。
激しく脈打つ心臓。
苦しくなる呼吸━━━━手が震え、写真立てが床に落ちてガラスが割れた。
「…婚約者?この女の人、あんたの婚約者か。」
内心からの返答はない━━━━だが満には確かに見えていた。
バラバラのジグソーパズルよろしく多数の光景がフラッシュバックし、それらが満に全てを教えていた。
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