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「だからこそ私が行くのだ。誰もが尻込みし、畏れる仕事をこなす事こそ私の役割…代わりに他の連中にはロシアンマフィアの店を潰してもらう手筈になっているだろう。お前も、しっかり運転してくれ。」
「ま、任せてください!」
きっと彼はまだ場数を踏んでないのだろう、妙に気張る様子が物語っている。
いよいよ入場ゲートに迫ると、詰め所から拳銃を腰にぶら下げた警備員が数人現れた。
「身元照会にご協力を。」
警備員が携帯端末を向けてきたので運転手が先に親指の指紋を読み取らせ、確認を終えたのか警備員はバーナードにも携帯端末を差し出した。
ワンワンッ━━━━急に聞こえてきた犬の鳴き声に驚き、指を出すタイミングを逸した。
それは警備員の1人が連れているラブラドール犬のものだ。
警備員の顔が引き締まる。
「すいませんが、車内と持ち物をチェックにもご協力を。」
無論、バーナードは協力的な態度を見せる。
「構いません。どうぞ?」
依然としてラブラドール犬はバーナードに向かって吠え続けている…きっと体に染み付いた硝煙の臭いに気付いたのだろう。車内は勿論、バーナードも武器らしい武器は一切所持していないのだ。
警備員達とラブラドール犬が車内をくまなく調べ、並行してバーナードのボディーチェックも進められる。
「…車内、クリア。」
「ボディーもクリア━━━━失礼しました。では最後に身元照会を。」
首を傾げながらも異常を確認できなかった警備員が携帯端末を向けなおし、バーナードの身元照会も終わってようやくゲートが開かれた。
気を取り直して車に戻り、ランドクルーザーは発進した。
「いやあ、焦りましたね。何もヤバいモンはないってわかっていてもビビりますね。」
「それは良くないな。何があっても慌てるな。焦りや混乱は致命的なミスや絶命に繋がる。」
「は…はい。」
すっかり圧倒されてしまった様で、それから運転手は額の汗を拭うと口を閉じてしまった。
フロートシティの灯りは霧に包まれながら海上で仄かに浮かび上がり、まるで巨大な船がそこにある様にも見えた。
いや、大型船舶に例えるにしても大きすぎる…シティ(街)と呼ばれる由縁がわかった気がした。
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