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これは…?
どこかで見た顔━━━━どこで?
わからない。
どこかで見たこの顔…こうして鏡で見ていた様な気もする。
けど、自分の顔だと言われると違和感がある。
━━━━何故?
自分のモノのはずなのに…この顔も体も、『竹田 満』と言う名前も━━━━そんなことを考えていたが、何かが食道の奥から逆流してきたのを感じ、すぐそばにあった便器にそれらをぶちまけた。
何もかも違和感だらけの中で、喉を通った不快感だけが鮮明だった。
また記憶はない…気付いたらこのトイレにいた。
どうやらコンビニかどこからしいが━━━━自らの体から発せられる臭いが鼻に付いた。
それは自分の腰、ベルトに差し込んで携行しているモーゼルから発せられている…硝煙の臭い。
━━━━今、どうして硝煙だってわかったんだ?
銃なんて撃ったことないはずなのに…。
思いながらそれを抜き出して、驚いたのはその感触だった。
手のひらに収まる鋼の肌触りや少し前方寄りのウエイトバランスは気味が悪いほどに手に馴染んでおり、安心感や心地良さまで湧いてきそうだ。
━━━━無意識的にとはいえ、そんな事を思ってしまったことに苛立ちを覚える。
今、手に握ってるのはオモチャじゃないんだ。
正真正銘、本物だ。それも、誰かを撃ったかも知れない代物…。
そうだ…これは銃だ。
これで誰かを撃った…?
━━━━そんなはずはない!
鏡に映る自分に内心で言い切ったが、どう頑張っても欠けた記憶は戻ってこない。
一つ言えるのは、硝煙の香りが色濃く残っているという事実…。
━━━━考えたくなかった。
自分が人を撃った…誰かを殺したなんて…。
でも、誰も否定してくれる人はいない。
きっと誰かに『人殺し』といわれても、否定できやしないだろう。
自分のこともよくわかっていない人間に、過去の行いの何を否定できるというのだろうか━━━━。
「お客様?大丈夫ですか?」
ノックに続いて女性の声…店員だろう。
騒ぎは起こしたくない、すぐに返答した。
「すいません、大丈夫です。今出ます。」
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