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「深春、今日は部活来るの?」
部活仲間でもある同級生に訊かれ、一ノ瀬 深春は申し訳なさそうに答えた。
「…ごめん。今日も行けないかも…。」
「また?いい加減にしないと怒られるよ?」
「わかってるよ━━━━でもお兄ちゃん探さなきゃならないし…。」
「警察も探してくれてるんでしょ?なら、わざわざ深春が探さなくても━━━━」
そこまで言い、同級生はハッとして言葉を訂正する。
「ご、ゴメン…。」
「別にいいよ。気にしてないから。」
…嘘で取り繕うと同級生はその場を去り、深春はその後ろ姿を見ながら内心で反論した。
━━━━わかってる。どうせ私じゃ見つけられないかも知れない。
たかだか女子中学生が警察より早く、行方不明者を見つけられた例なんて聞いたことがない。
でも、だからと言って諦められるほどお兄ちゃんの存在は薄いものじゃない。
あまり歳が離れてないお兄ちゃん…ちょっと太ってるし内向的な性格だけど、それでも優しく笑う正義感の強い兄だった。
尊敬…と言うべきかわからないけど、とにかく、特別な存在に変わりはない。
何と言われようと、できる事はやっておきたい。
鞄片手に放課後のざわつく廊下に出ると、今度は同じ小学校だった男子に話しかけられた。
「なあ、兄ちゃん探してんだよな?」
その事実は少し親しい人間であれば誰もが周知の話であったが、彼と兄の話をした事がなかっただけに深春は驚く。
「それがどうかした?」
「さっきテレビで見たんだよ。ケータイでさ━━━━録画できたから見ろよ。」
にわかには信じられない話だったが、せっかくの手掛かりを無駄にしない手はない。
待っていると、彼が携帯電話を出して動画を再生し始めた。
「これだよこれ。どうだ?」
見せられたのはローカルテレビ中継…その後ろを通り過ぎる横顔は、兄のそれによく似ていた。
「似てる…でもお兄ちゃんより少し痩せてるかも。」
「そりゃ痩せたりくらいするじゃん。もうしばらく行方不明なんだろ?」
そう言われれば納得できる。かれこれ3ヵ月は行方不明なのだ━━━━深春は10秒にも満たない動画を何度も見ながら確認した。
「これって札幌だよね?」
「そうだよ。札幌の駅前だ。毎日この場所から中継でやってっからね。」
札幌…札幌にお兄ちゃんがいる。
そう考えると自身の中、徐々に嬉しさが広がっていくのを感じながら呟いた。
「札幌か…親戚の叔母さんの家がある、か。」
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