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事務所までならタクシーで行けばいいのだが、いつまでもお客さん気分ではいられない…地理を記憶するためにも地下鉄で行くべきか━━━━バーナードは頷いた。
「そうしよう。ところでお前はここのラッシュアワーを見たことあるのか?」
「あるよ。朝テレビに映ってたからさ。札幌駅の工事が遅れてて云々ってニュースで。」
━━━━2人の部屋が用意されたのは改修工事中の札幌駅のすぐ目の前、市内が一望できる高層ホテル。元は大きな商業施設だったそこからも札幌駅の改修工事は見えた。
老朽化が進んだ札幌駅と周辺の地下施設は改修工事が始まり、加えて地下街の拡張工事も同時に進んでいるというのは今朝、新聞で読んで知った。
止まぬ人の流入に伴い、地上と地下の両方に手が加えられていく…人を飲み込む為の施設に、人を運ぶ陸路━━━━そんな事を考えながら、バーナードは地下街の入口をくぐる。
白を基調とした清潔感のある空間…写真で見たのはそういう場所だったが、今では汚れや照明の破損が目立ち、道端にはホームレスが死体の様に寝転がっていた。
「これだけ老朽化してりゃあ改修工事も入るよな。」
「改修に拡張なんかして、おかげで地下街が迷路みたいになってるな。」
バーナードは壁に埋め込まれた案内板の地図を一瞥し、周囲を見渡して━━━━ゲイルの肩を掴んだ。
「止まれ。」
「え?何でよ?」
「…見ろ。嫌な感じだ。」
━━━━その存在に、説明はいらなかった。
登山用のものらしい黄色のヤッケを来た彼はバーナードよりはるかに小柄だったが、頭に被ったフードからのぞく赤い瞳は2人に鋭く尖った殺気を突きつけている。
だがその口元はニヤリと歪んでおり、嬉々とした感情が滲み出ていた。
ゲイルはとっさに銃に手をかけたが、バーナードはそれを制止した。
「やめろ。奴が何者かわからん。それにこんなところでぶっ放せば叔父貴にも迷惑がかかる。」
チッ、と舌打ちしたゲイルは反論した。
「どう見てもマトモじゃねえだろ。獣みたいな面してガンつける一般人なんざいるかよ。」
「だが待て。あの目━━━━マチェットの野郎だ。」
「古塚を殺した野郎?」
確たる証拠はないが、バーナードの瞳に映る赤い眼光はあの画像と同じ様に感じてならない。
━━━━「臭ウ…鉄ノ臭イ…血ノ臭イダ。」
奴の言葉は誰かに向けて発せられたものではなく、独り言の様に思える。
「あ?何言ってやがんだ。」
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