Prologue~序章

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* 退化していくモラルや荒んだ社会とは反比例するかの様に、地面に立つ立派な建造物━━━━ここを言い表すのに最適な言葉は他にないだろう。 バカな政府が増大させた人口を飲み込む『胃袋』として高層マンションは増加し、少し離れたところには海外から流入した外国人も多くいる貧民街が形成されたのだ。 …しかし貧民街はごく自然に発生した、いわば『副産物』だ。合法か違法かに関わらず流れ着いた者達が群れ、吹き溜まっただけの烏合の衆。 そう考えると、人の手によってわざと作られたこの高層マンションと貧民街に難癖つけて比較するのは間違いかも知れない━━━━ベランダからの風景を見ながら煙草をくわえ、何をするでもなく恭一は思考を巡らせていた。 背後のベッドで寝ている女は妻じゃない。うっかり湧いてきた性欲のはけ口として一晩だけ買ってやった、国籍もわからないただの娼婦だ。新しく仕入れた薬を試しながら一晩中腰を振らせたものだから、疲れきって死んだように寝ているのだ。 …いや、実は昨晩死にかけたのかも知れない。新しい薬にどんな副作用があるかはわからない。 もし一回使ったくらいで死んでしまうドラッグならさばいても意味がない。リピーターをつくれないドラッグでは儲けられない。 煙草を灰皿に置いて室内に戻ると、恭一は娼婦の様子を見た。 脈は…ある。 呼吸は浅く、目の下にくまがあるが死んではいない。 昨日の乱れ方から見てもなかなかいい効果があった様だし、これならさばける━━━━ RRR…━━━━ベッドのすぐ横、携帯電話が光りながら着信を知らせた。 表示された番号は、事務所のものだ。 「はいよ、俺だ。」 (お休み中のところすみません。実は気になる警察無線を傍受しまして…どうやら札幌駅でバーナードが暴れてる様なんです。) まさかとは思ったが、しかし部下がそんな嘘をつくはずもない。 「確かなのか?」 (無線では『身長2メートル以上の男が逃げるように走り去った』とか、『銃声が聞こえた』などと言ってます。どうやら現場も混乱しているみたいです。) 冷静沈着なあいつが無意味に…それも人目につきやすい場所で発砲するとは思えない。 だが現に警察が動いているのだ。もし『身長2メートル以上の男』がバーナードならば、事態が悪化する前に手を打たなければならない。 (知り合いの警官を現場に行かせて状況を確認させろ。金は後で払うと伝えとけ。)
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