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警察連中の仕事ぶりも大したものだ。大袈裟に取り囲んだわりには抜け道ばかり…まるで子供と鬼ごっこでもやってるみたいなものだ。
「執拗ニ追イカケテキタ、ソノ根性ダケハ認メヨウ。」
男は誰に言うでもなく呟き、マチェットを振って体温を孕んでいた鮮血を落とした。
殺風景で閉塞的な非常階段に転がる複数の警官の骸からは既に魂が抜け落ちている…残念ながら、防弾装備をまとっていようが関係ない。どんな弾にも耐えられる防弾装備を着けていたとしても、マチェットを差し込む隙間がないわけではない。
そこさえ理解していれば、武装した作戦チームだろうが片付けるのは造作もないのだ。
死体が身に付けている無線機からは、ひっきりなしに会話が聞こえている━━━━じきに味方の死にも気付くだろう。死体は無線機に応答できやしない。
血溜まりを避けて歩き出すと、携帯電話が震えて着信を知らせた。
非通知の相手だろうが知ったこっちゃない。通話ボタンを押す。
「誰ダ?」
("ファンピール"か?まさか駅の件は貴様か?)
"ファンピール"━━━━そう呼ばれた男は笑う。
「オ前等ガ奴等ノ居場所ヲ教エタカラサ。」
(しかしこんな真っ昼間から、それも人目に付く所で暴れるな。お前がもし捕まれば私達も危うい。)
「怯エルナ。貴様等ハ情報ヲ教エロ。『天照』ガ消エレバ、オ互イ満足ダロ。」
電話の向こう、えらく弱気なロシア人が言い返してこないので電話を切り、上着のポケットに滑り込ませる。
客だ━━━━革靴とは違う硬い靴底が発するいくつかの足音と気配が近付いている…警官か特殊部隊かどちらかだ。
"ファンピール"は非常階段を一気に駆け上がると、身軽で頑丈な体を鉄扉にぶつけて外界へと出た。
これから西へ傾いていくだろう太陽に目を細めて着地点を探すと、良い場所が見えた。
大通りを挟んだ向こう側、外気にさらされているビルの非常階段を捉えた"ファンピール"は手摺りを引き剥がし、少し助走をつけると思い切り踏み込んで跳んだ。
ガキィンッ━━━━非常階段の手摺りを破って着地し、振り返ると警官達がこちらを見て唖然としていた。
手にしている銃をこちらに向けることもできずに立ち尽くす警官達を後目に、ビルの壁を伝って一気に地上に降りて走り出した。この調子なら、警察の包囲網など5分とかからずに抜けられるだろう。
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