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釧路は発展した━━━━口々に言う周りの大人達がどんな街で育ったかは知らない。
しかし知らなくても、釧路がこの大都市よりも小さいのは誰でもわかる。ショッピングモールや高層アパートなら釧路にもあるが、その量も、隙間を埋める人間の数も釧路の比ではない。
キャリーバッグを引きながら歩く旅行者らしい人、警棒を腰に携えた巡回中の警備員、出張に行くスーツ姿の連中…そのどこにも求める姿━━━━兄の姿はなかった。
深春はキヨスクの壁に体を預けながらその流れを、ぼんやりと見ていた。
兄が何故、札幌に来たのか━━━━皆目見当がつかない。
もしかしたら家出かも…とも考えたのだが、何がそこまで不満だったのかが問題だった。
兄は体こそあまり丈夫ではなかったが、全国的にも知られる進学校でトップの成績。しかもパソコンについても才能があって、まだ17歳なのに外資系IT企業からスカウトまで来たくらいだ。
…そう。よく考えたらわからない事はそれだけじゃない。
大体にして、スカウトの人間はどこで兄の事を知ったんだろう。それに兄はパソコンで何をしてたのか。それさえ知らない。
兄の何を知ってるのか…身近な人間だからこそ見えない部分もある。
皮肉にも、深春は今になってそれを知ったのだった。
━━━━急に視界に入ってきた2人の男に、深春は気をとられた。
1人は白…銀髪の外国人で、もう1人は大男だ。深春の目の高さでは顔すら見えないぼどの巨体が、奇妙なくらいに俊敏に人波をすり抜けて深春の前を過ぎて工事中の区域に入って行ったのだ。
直後、その2人を追うように小さな影が同じ区域に突入し━━━━怒号や物音に続いて爆竹みたいな破裂音が空気を裂いた。
音の正体を知らない深春は反応が遅れたが、周囲の人達の様子で事態を察する事ができた。
「Gun fire!?(銃声!?)」
銃声など聞いた事ない深春だったが、漠然とした危機感だけでも体は動いていた。
聞こえるのは悲鳴、それと時々銃声。
「Hey girl! Get out here!(おい!さっさと出ろ!)」
白人の男が手を掴むと怒鳴り、深春は返した。
「B…but I'm waiting for my brother!(で、でもお兄ちゃんを待ってるの!)」
「No! Don't stay here! Follow me!(ダメだ!ここにいちゃいけない!ついて来な!)」
それを拒もうとしたが、未知の危機と他人の善意に押されて深春は拒めずに駅を出た。
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