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「バーナードさん、用意ができました。」
部下が言ったので、バーナード・ハイトマンは返した。
「警戒線は?」
「周囲2ブロックはクリアです。」
「車は?」
「勿論。絶対に大丈夫です。」
ニヤリと笑って親指を立てて見せた部下の言葉に疑念はない。
しかし、バーナードは部下の肩を叩いた。
「『絶対』などという言葉は存在しない━━━━注意は怠るな。」
「は、はい、わかりました。」
部下が車の方に戻り、踵を返してバーナードは店の中へと戻っていった。
琴の音色をスピーカーを通して流れる店内、この日本料理店はボスのお気に入りの店でもある。
「失礼します。」
バーナードは廊下に跪いてから言い、障子を開いて顔を上げた。
「ボス、車の用意ができました。」
「そうか。それじゃあ行こうか。文也はバーナードに案内してもらいな。」
ボス━━━━日出 剛は膝に手をつきながら立ち上がると背筋を伸ばし、その向かえに座っていた半村 文也も帰り支度を始めた。
「どうよ、この店。料理もなかなかだろ?」
「ロスにも日本料理店はあるが、こっちは最高だな。」
「だろ?ちゃんと日本で修行した板前が作ってるんだぜ?」
饒舌な2人は、共に酒を酌み交わした直後だけに頬を赤らめて上機嫌だ。
その剛の耳に、バーナードは耳打ちする。
「ボス、不用意な行動は避けてください。」
「何だ、何をそんなに警戒してんだ?」
「朝にも申し上げた通り、『古塚派』の計画が実行されるかも知れません。いつも以上にお気をつけ下さらないと。」
剛は笑って言い返した。
「『古塚派』は組織拡大を無理やり推し進める強硬派だが、まさか俺を殺すなんて真似はしねえだろ。そこまで警戒する必要はねえ。」
「不穏な動きがあるのです。ゲイルからの報告もありますので━━━━」
「お前等を信用してる。大丈夫さ。いつも通り頼む。」
剛はにこやかに答えて店を出て、空を仰ぐと黒い4WD(リンカーン・アビエイター)に乗り込んだ。
それに続いていた文也が、唐突に振り返って渋い顔をした。
「『不穏な動き』って言葉は気になるな。何の話だ?」
彼が目を細めるのも無理はない。危険な匂いに敏感な人間なら誰もが訊く事だ。
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