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いの一番、"ファンピール"を煽ったのは若いディーラーだった。
"ファンピール"は答える。
「何ダト?」
「わかってんだよ。防犯カメラに映ってた。」
「ソレハソレハ。失礼。」
その態度にしびれを切らし、とうとう彼は声を荒げた。
「ナメた口きいてんじゃねえぞ!?俺達が本気になりゃ━━━━」
ヒュンッ━━━━幹部達の目の前を高速で横切った物体は、風切り音を走らせながらディーラーの首筋にぶつかった。
…否、ぶつかったのではない。刺さったのだった。
幹部達の顔にかかる温かな飛沫。
テーブルに散り、滴る鮮やかな命の証。
間もなく、ディーラーは情けなく口を開けながらもがいて倒れ込み、幹部達は銃を抜いた。
「テメエ!」
「彼ハ血圧ガ高カッタ。ダカラ血ヲ抜イテヤッタノサ。」
「ふざけやがって!ここから生きて帰れると思うなよ!?」
悲鳴やら足音やらが響いて混乱が広がる中、殺意に囲まれた"ファンピール"が取り出した凶器はとても静かなものだった。
「見エルカ?」
薄く長方形型の黒いそれは多分、大抵の人間なら見覚えがあるはずだ。
規則的に並んだ数字と『音量』の文字…日本製のテレビのリモコンだった。
「幾ツカギフトヲ用意シタ。楽シミダロ?」
「嘘にきまってらぁ!ここの警備は厳重だ!」
「いや待て!奴ならやりかねん!撃つなよ!?」
"ファンピール"は喜ぶ。
「マダ死ニタクナイカ。」
「敵は『天照』だろ!?何で俺達に刃向かうんだ!?」
「勘違イスルナ。利害ガ一致シタ、タダソレダケダ。」
"ファンピール"は席を立つと、高々とリモコンも掲げながら出口へと歩き出す。
「コレハ俺タチト『天照』ノ戦争ダ。俺ガ欲シイ物ヲ用意スレバイイ。命令スルナ。」
「…わかった。今度は何が欲しいんだ?銃か?金か?それとも偽造ID?」
張りつめている空気など感じない素振りで、"ファンピール"は叫んだ。
「アノデカイ奴ヲ探セ!全テ殲滅シテヤロウ。」
出口の奥、通路の闇に馴染んで消えた"ファンピール"に代わって残ったのは、あのリモコンだけ。
部下の1人がそれを拾い上げ、気付いた。
「これ…電池入ってないスよ?」
「偽物(フェイク)か?」
「多分…。」
クソッ━━━━幹部の1人が憤慨した。
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