Prologue~序章

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* 『闇夜の惨劇━━━━死者50人以上』 見出しだけなら、まるでその記事がテロか災害の報せにも見えなくはない。 だが違う。釧路のクラブで多数の人間が殺傷された事件…それも1人の、マチェット1本だけを持った男によって引き起こされた事件の記事だ。 『天照』のクラブなのだから当然、銃を持った警備も多数配置されていたはずだ。それなのにこの有り様━━━━普通に考えたら警備が手温かったと思える結果だ。 「バーナード、刀だけで何人殺せる?それも5分以内に。」 隣りでパソコンの画面を覗き込んでいたゲイルが訊ねたのだ。 「そうだな。状況にもよるが、銃を持った警備がいなければこいつと同じくらい殺れるだろう。」 「怪我は?」 「無傷じゃ済まん。抗弾装備(アーマー)があってもな。」 「だよなあ。俺もそう思った。」 窓も閉め切られた閉鎖的な部屋では時間の感覚もなかったが、ゲイルが窓を開けたことで、太陽はずいぶん前に昇ったのだと理解した。 パソコンを操作して仮眠を取って…それを何度か繰り返すうち、夜が明けたらしい。 「眠い…ってか腹減ったな。何かたのもうぜ?」 ゲイルの勧めを素直に受ける。 「そうだな。何にする?」 「日本食はパス。ピザとかにしようぜ?」 「せっかく日本に来たのに日本食を食べないのか?」 「だって本場の日本食は味薄いって聞いたぜ?」 無理やり日本食を食べさせる様な無粋な真似もしたくない━━━━バーナードは言った。 「なら内線で受付(レセプション)に頼んでもらえ。俺はなんでもいい。」 「そうするさ。タダ飯ってのは最高だねえ。」 本当に腹が減って仕方がなかった様で、ゲイルは目を輝かせながら内線に走ったのだった。 さすがに、一晩中パソコンと対峙していたら逃避もしたくなるだろう…調べても役に立ちそうな情報がつかめないのだ。嫌気も差してくる。 新聞などからわかるのは、せいぜい被害の様子と警察のちょっとした動きだけだ。知ってる情報屋もいないこの状況ではこれ以上は難しい。 「なあ、もうやめようぜ?どうせ新聞だけじゃ何もわかんないって。」 ソファーに体を投げ出してピザを待つゲイルは、もうやる気の欠片もないようだ。 バーナードも不本意ながら頷く 。 「考えが甘かったな。少しは何か得ると思ったんだが…。」 「新聞なんかじゃ無理だろうよ。これならネットの掲示板とか漁ってみた方が良かったんじゃねえか?今時は何でもネットだし。」
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