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「行ったか。バカ共が走っていったぞ。」
銀髪の彼が現れたドアから今度は大男━━━━思わず深春は「あ!」と声を出してしまった。
何も知らない大男は首を傾げる。
「何だ?」
確か駅で逃げてた大男…もし目撃したことを口に出してしまえば、今度こそ命はないかも知れない。
何者かは知らないが、銃を持っているのだ。
「い、いえ…驚いただけです。」
状況が状況だけに、2人はその言葉を疑っていない様子だった。
「そうか。いつも言われることだ。」
「大丈夫。デカくて仏頂面だけど噛みつきゃしないからさ━━━━ちょっと待ってな。」
銀髪はポケットから折り畳み式のナイフを出して、深春の手足を縛っていたガムテープを切ると手を差し伸べた。
「俺はゲイル。デカいのはバーナード。君は?」
「あ、深春です。一ノ瀬 深春。」
「ミハル?発音はこれでいいのかな?」
「大丈夫です。通じます。」
「そりゃよかった。言葉が通じなかったら困るもんな。」
ゲイルの笑顔は朗らかで、まるで子供みたいにも見える。銃を構える姿を見なければ、到底悪人には見えないだろう。
「どうするんだ?その子。」
仏頂面の彼が言ったのだ。叔父貴に言って部下に送らせるさ。」
「そんなことを頼める立場じゃあるまい。こちらから連絡をとろうとするのも良くない。」
「かといってこのままこの子と一緒にいるわけにゃいかないだろ?頼むだけ頼んでみるさ。」
自分をめぐる話に、深春は決着をつけようと口を開いた。
「大丈夫ですよ。タクシーに乗っていけば1人でも安全ですし。」
「そうはいかないだろ?タクシーだから安全とは限らない。」
「でも早く帰らないと…大丈夫ですから、1人で帰ります。」
腕を胸元で組み、壁にもたれかかるバーナードは頷いた。
「それがいい。ゲイル、タクシー代はお前が出せ。」
「やっぱそうなる?まあタクシー代くらいならあるか。」
というやいなや、ゲイルはポケットから数枚の紙幣を出して続けた。
「多分これだけあれば足りると思うんだ。」
「え、ええ。大丈夫かと思います…本当にありがとうございました。」
危害を加えるつもりはないみたいだけど、急いでここから出なきゃ━━━━思いながら部屋を去ろうとした深春の肩を、バーナードが軽く叩いた。
「…気をつけろよ?世の中、善人ばかりじゃない。」
「え、あ、はい。」
跳ね上がった心拍数を抑え、深春は階段を降りていった。
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