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俺はどうなった…?
死んだのか?
疑問が苛立ちに変わり、満は目を開いた。
━━━━真っ暗な部屋。あるのは砂嵐だけを映し続けるテレビだけ。
…何もないのだ。
何があるかもわからない黒の空間でテレビは1人で、モノトーンのモザイクで満を照らしていた。
その明かりで自分の体を見てみたが、怪我はしてないらしい。だがそのわりに体の感覚が妙で、少し麻痺しているみたいだった。
「なあ!誰かいるか!?」
…声は反響もなく、彼方へと滲んで消えていった。
頼るものもない満はテレビのチャンネルを変えてはみたが、しかしテレビは顔色を変えなかった。
相変わらず雑音ばかりを垂れ流すそれに苛立ち、握った拳の尻をテレビに叩きつける。
「何か映れよ!壊れてんのか?」
すると機嫌がよくなったのか、急にどこかの風景を見せてきた。
日中の日差しに照らされる街並みは、暗闇に慣れた満の瞳に痛みを与える。
見えてきたのは…札幌らしい。スナックらしき看板に地名が書かれていた。
『すすきの』という地名が他にもあるならどうかわからないが、少なからず満の知っている『すすきの』は札幌にしかない━━━━テレビは誰かの視点の様で時折、咳き込む音と同時に画面がブレるのだ。
テレビの視点の彼…咳き込んだ時に聞こえた声で男だと推測したのだが、とにかく『彼』は薄暗い路地を通って裏通りへと出る。
そこで『彼』が取り出したのは…見たことのある拳銃だった。
引き金の前方に配された箱型弾倉の収納部と、無骨な本体からすらりと伸びる銃身。気を失う以前、現実の世界で見たモーゼルM712だった。
『彼』はモーゼルのボルトをスライドさせて弾を装填すると、曲がり角から顔を出してその先を覗き込んだ。
細い階段が上に伸びるビルの正面、数台の黒塗りのセダンに見張りらしい男が4人━━━━『彼』は駆け出す。
バババッ━━━━減音器も着けられていない銃口で炎が踊り、的確な点射を受けた4人は呆気なく戦意と命を失って果てた。
そして何より、満の手が画面のモーゼルと同時に震えたのが奇妙だった。緩やかな曲線を持つ引き金に触れた人差し指に残る金属独特のざらつき。加えてモーゼルを点射する指の健や筋肉の微弱ながらもしなやかな動き…今撃ったのは画面の中の彼なのに、満はそれが自分の感覚だと錯覚してしまいそうになった。
━━━━いや、そもそも画面の中の『彼』は誰だ?
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